HF & SKATETHING
Talk About... “Asger Jorn”

 ユニフォーム エクスペリメント(以下UE)では、この2021年春夏シーズン、コレクションの重要なピースとしてアスガー・ヨルン(Asger Jorn/1917-1973)のアートワークをピックアップ。 1940年代の前衛美術運動「CoBrA」や、そこから派生した1957年の社会革命的国際組織「Situationist International」の創設にも深く携わった稀代のデンマーク人アーティストは、その前衛的な作品の数々が後にパンクムーブメントに多大な影響を与えたと言われている。 そんなアートシーンの巨星に古くから特別な思い入れを抱き、今回UEとのコラボレーション実現に導いた藤原ヒロシ氏に、同じくアスガー・ヨルン作品から少なからず影響を受けているというC.EデザイナーのSKATETHING氏とともにヨルン作品の魅力について語っていただいた。





藤原ヒロシ (以下HF):アスガー・ヨルンはデンマーク出身のアーティストですが、実はヨーロッパでもそれほど有名な人ではないんですよ。だからたまたまシンちゃんに今回UEでアスガー・ヨルンとコラボレーションするんだっていう話をした時に「アスガー・ヨルン!?」という感じですぐに食いついてくれたことに正直びっくりして。

SKATETHING:アスガー・ヨルンの存在をちゃんと意識したのはわりと最近なんですけどね。それこそ(セックス・)ピストルズ好きのヒロシくんや(高木)完さんからシチュアショニスト[※注1]について初めて教わったのが30年以上前ですから、ヒロシくんはその頃からヨルンを追いかけていたということですよね。

[注1] パリを拠点に芸術家や知識人たちによって結成され、1950〜60年代にヨーロッパ中の反体制運動を牽引した社会革命国際組織シチュアショニスト・インターナショナル:Situationist International(国際状況主義連盟、通称SI)のこと。アスガー・ヨルンはその象徴的アーティストの一人。

HF:ジェイミー・リードらが手がけていたピストルズのアートワークのインスピレーション源がヨルンの作品にあると知って興味を持ったのが最初かな。

SKATETHING:それはどうやって知ったの?

HF:どこかで読んだか、聞いたかで。

SKATETHING:ヒロシくんはマルコム(・マクラーレン)とも関係が長いからね。

HF:でも本人たちから聞いたわけではない。彼らのことを掘っていくうちに自然とシチュアショニストに当たったというか。その後シチュアショニストの中でも特に有名なギー・ドゥボール[※注2]という人を知り、彼の本〈Mémoires〉のアートワークを手がけていたのがアスガー・ヨルンだったというところに辿り着いたんですよ。

[注2] フランス・パリ出身の著述家・映画作家(1913-1994)で、前述のシチュアショニスト・インターナショナル(SI)の創設者の1人。アスガー・ヨルンとの共著に〈Fin de Copenhague〉(1957)、〈Mémoires〉(1959)。

SKATETHING:そう考えたらヒロシくんは40年近くパンクやシチュアショニストを追いかけ続けている。中学生の頃からだから、恐ろしい情熱ですよね。そして今の時代にこうしてまた形にしてくるところがすごい(笑)。

HF:今は好きなアーティストがいてもそのアーティストの曲や言葉、映像、写真なんかがあれば良いという時代なのかもしれないけど、僕らが若かった頃というのは好きになったアーティストがなんでこんな曲を作っているんだろうとか、なんでその服を着ているんだろうとかっていうことをとことん掘らずにはいられない時代だったというか。そして僕が中学の頃に夢中で聴いていたパンクを掘りに掘った結果、いちばん深い最終地点に存在したのがアスガー・ヨルンだったんですよね。

SKATETHING:そのアスガー・ヨルンをなぜまたこのタイミングでピックアップしようと? ずっとやろうと機会をうかがっていたの?

HF:実はずっと〈Mémoires〉のタイトルフォントが頭に残っていて、オフィシャルでコラボレーションをして本物を使ってプロダクトを作れたら面白いんじゃないかと。本当にやれるとは思わなかったけれど(笑)。





こちらが〈Mémoires〉のタイトルフォント。
UEではシンプルかつシンボリックに配したフーディやニット、Tシャツなどを展開。

SKATETHING:普通はやろうとも思わないし、思ったとしても実際に本物のアスガー・ヨルンの作品に到達できるとは思いもしないよね。

HF:この紙やすりの表紙のものが〈Mémoires〉の初版。

SKATETHING:初めて現物を見ましたけど、やっぱりすごい。恐ろしくてちゃんと開けないもん(笑)。

HF:この発想には驚かされるよね。

SKATETHING:使うと手がボロボロになり、並べた他の本もボロボロになるようにっていう意味なんですよね、これ。まさにシチュアショニズムというか、本が武器になるっていうコンセプトが本当に面白い。ヒロシくん、これを元ネタに紙やすりのiPhoneケースとか作ってくださいよ(笑)。 だってそれを入れたポケットが全部ボロボロになったら面白いじゃないですか。





HFが長年かけて集めたというアスガー・ヨルンの作品集の数々。 右端の紙やすりの表紙が〈Mémoires〉の初版で、
シチュアショニスト関連の作品を多く扱っているパリの古書店で購入したものだとか。

HF:マルコムやジェイミー・リードがここに憧れていたという点でも、アスガー・ヨルンの作品はパンクの源泉だったと言えると思います、僕は。初めて彼の作品を見た人はパンクに繋がるようには感じられないかもしれないけれど。シンちゃんから見ても完全にパンクだよね。

SKATETHING:むしろパンクにしか見えないです。マルコムやリードはリアルタイムで影響されたんですかね。

HF:あの人たちはリアルだったみたい。

SKATETHING:きっと学生運動の影響ですよね。この漫画の吹き出しで政治を風刺している感じとか、ジェイミー・リードがピストルズのアートワークでやっていましたもんね。

HF:日本でも昔そうだったように、社会や政治の体制に反対する運動をしていた人たちと芸術家ってわりと近いところで思想で繋がっていたんじゃないかと思う。そこから生まれたものをパンクやファッションに落とし込んだことでよりいっそう当時の若者たちに受け入れられたというか。

SKATETHING:しかし今こうして見てみてもヨルンの作品はめちゃくちゃ多岐に渡っているというか、当時当たり前のようにあったようなものを使って全然違った視点を与えている感じがすばらしいですよね。

HF:そうだね。コラージュやアブストラクトなものの上にきれいなフォントを並べるという、ベースはそういう感じなのかな。



こちらはギー・ドゥボールとアスガー・ヨルンが初めて共作した〈Fin de Copenhague〉(1957)のドリッピングペインティングを用いた総柄シャツ。

SKATETHING:壁画みたいに決まったスタイルのない、いろんなものが内包されたアートだから何度見ても飽きないんですよ。こういうものですってはっきり説明されていないところも逆に良いのかもしれない。僕らがデンマーク語やオランダ語を読めないだけかもしれないけど。グラフィティみたいなものも全部ここに集約されている感じがするし、本当にすごいなと。当時はどれくらい影響力があったんでしょうね。

HF:リアルタイムではそれほど広くは響いていなかったようにも思うしね。

SKATETHING:もしかしたらUKのニューウェーブとかもアートワークが特徴的だったからシチュアショニストからの影響なんじゃないかなとも思ったり。

HF:そのあたりも全然わからないよね。ニューウェーブの人たちがダイレクトにここが好きだったのか、それともピストルズというフィルターを通して好きになったのか。




SKATETHING:でも誰も知らないからいまだにヒロシくんとか僕が追い続けているところもありますからね。よくアートも音楽も消費されすぎるとつまらなくなるって言いますけど、ヨルンの作品は本当に消費されていない。

HF:たぶんここが始まりだからだと思う。ヨルンが誰かに影響されたのではなくて、彼自身がいろんなもののオリジンになっているから今見ても褪せない鮮度があるというか。ヨルンのアートそのものがネタの宝庫なんですよ。だから、今回のUEのプロダクトはある意味では僕のノスタルジーでしかないのかもしれないけれど、こうして初めて形にできたことは素直に嬉しいですね。

SKATETHING:今はまたカオスな時代だから、こうしてヒロシくんがヨルンの作品を取り上げることに新しい意味が出そう。これで急にアスガー・ヨルンブームが来たりして(笑)。







Photographs : Go Tanabe
Interview&Text : Kai Tokuhara

Jorn/G. Debord: Mémoires, 1959,
© Donation Jorn, Silkeborg
Jorn/G. Debord Fin de Copenhague, 1957,
© Donation Jorn, Silkeborg

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