藤井隆行 × 清永浩文
Talk about... “Sophnative”

 長く続いた〈SOPH.〉と〈nonnative〉とのコラボレーションは、世界中のマインドセットを変えてしまったCOVID-19の影響か、自らの業界におけるステージの変化か、それに対する自然な抵抗か。いずれにせよ生活に結びつくコレクションへと変わっていった。掛け算方式の恣意的なバズを起こすためではなく、お互いのリアルを慣らしていく先に生まれるプロダクトについて、改めて考えを話し合うゆるやかな時間は、そのままSOPH.代表、清永浩文の退任話へと。すぐ近所に暮らす藤井の家族もふらりと訪れるといった、心地よい空気が流れる清永の葉山の新邸にて。とある土曜の朝。コーヒーを飲みながら。

Interview&Text : Masayuki Ozawa [MANUSKRIPT]


—改まってしまいますが、お二人が出会ったきっかけを教えていただけますか?

清永浩文:日韓ワールドカップの前後じゃなかったかな?

藤井隆行:LOTUSの上の、FOOTBALL IS BEAUTIFUL LOUNGEでやったパーティ。そこで松田直樹に紹介されて。だからワールドカップの真っ最中だったと思う。

清永:そうか。その後いろいろサッカーの試合を見に行った先で会ってたね。

藤井:僕、あの頃毎週のようにJリーグ見に行ってました。で、終わったらみんなで飯食うみたいな。

清永:だからお互いブランドの人間として出会っているわけじゃない。vendorのオープンっていつだっけ?

藤井:2005年です。


—プライベートのお付き合いがブランド同士のコミュニケーションに発展するって、すごく自然な流れに聞こえますが、思い返せばあの時代特有の考え方だったようにも思います。

藤井:僕は基本的に(業界の)先輩から声がかからないとやらないかな。こっちから「やりましょう」って頼んでも、人って断りにくいし。だから清さんが「そろそろなんかやる?」みたいに来るのを待ってた感もあったかな。

清永:自分の目線的には、縁がない人に自分からノックしたことはない。やっぱり縁とタイミングでコラボしてきたつもりです。

藤井:知らない人にアプローチしたことはないですか?

清永:うん。それは一貫していて、アーティストとコラボする時もまずは自分がその人のファンで、作品を所有してからオファーしている。初めまして、の時にコラボしましょうはないし、コミュニケーションをとって仲良くなったタイミングで、だね。だからブランドとしてより、人とコラボしている感覚かな。あとはいくら仲良くても、世の中的に「これってなんの意味があるの?」と思われるようなことはしてこなかったつもり。
 僕は気心知れた関係だと、なんでも相手に任せちゃうんです。お互いが探り合いながらぶつかり稽古する感じだと、良いものは生まれないから。漫才じゃないけど、自然な掛け合いができると相手への理解も早いし、物事が簡単に進む。そもそも面倒くさがりなところがあるから、とにかく楽していたいタイプなんです。





—知り合いの関係からスタートして、そこに至るまでに何かしらの理由があるということですね。
一般的にコラボレーションという言葉から連想するのは、爆発力とか化学反応とか、大きなバズだったりすると思うのですが、Sophnativeはお互いの緩やかな関係を表現している感覚があります。

藤井:そもそも、前回「2-step」を作った時も、ここでSOPH.と〈lucano〉の脚立を見て、僕の家の薄い木の床の色に合わせてもらったものだし、今回は清さんが「前に作ったマグカップがもっと欲しい」みたいなところから始まったんです。その時に今度は、この家の1階、玄関から続くグレーの床に合わせた脚立を作りたいと思ったんです。

清永:そうそう。きっかけはすごく単純。こっち(葉山)に家を建てたんで、東京で使っている予備のマグカップだけじゃ足りなくなったから作ったんだよね。

―リアルに自分が使いたいもの、という観点でいえば、お二人が自分たちのブランドでマグカップを作ったことは意外でした。他に好きなものを買うこともできたはずですし、あまりご自身の生活にご自身のブランドを取り込むタイプではないように感じます。

清永:藤井くんはどうかわからないけど、割と自社でマグカップ作っているんです。たしかに、家で自分で作ったものに囲まれると、オンとオフが繋がってしまうから、心地よく感じられないこともあります。お客さんが来た時に、自社のマグカップでコーヒーを出すのも、ちょっとこそばゆい。でも、人と一緒にやると中和されて、自分のものじゃない感覚になる。

藤井:だけど、思い入れも生まれる。〈nonnative〉でロゴを入れるってほとんどないから、こういうデザインはコラボレーションでしか生まれない。逆に全部が新しい感覚かな。

―生活用品として、自分たちで作る、既存品で好きなものを探す、その境目ってどこにあるんでしょうか?

清永:既に前回の対談でも話していますが、服と同様に「餅は餅屋」みたいな目線はずっとあって、自社で似たようなものを作ることができても、結局自分はオリジナルのものを使い続けると思います。家のものも同じこと。素晴らしいインテリアやプロダクトデザイナー、建築家がたくさんいる中で、自然と自分で一線を引いていると思います。ただ脚立は、作るか作らないかのちょうど端境にある存在というか、アイデア次第で使えるな、と。

藤井:〈SOPH.〉が木目で作ったのは、目から鱗が落ちると言うか。長谷川工業の脚立はオフィスでも使っていたから、自分たちでオファーしてもいいと思ったけど、それは僕にとって清さんが餅屋になっていたから、まずはそこにお伺いを立てたというか(笑)

清永:その頃、長谷川工業とご縁があって一緒に作りましょう、って話になった時、ウチのロゴを入れたらお客さんも喜ぶかな、って思いがよぎったんです。 でも、それじゃ仕事道具を家に置いている気がして、自分では使わないかな、と。じゃあ自分が本気で欲しい脚立ってなんだろうって考えたときに、木目調を思いついたんですよ。

藤井:でも、〈cado〉の空気清浄機もウォルナット柄で作ってましたけど、木目のツヤ感とか、インテリアに調和するかどうかは、かなりギリギリなところを攻めないと嘘くさく見えちゃうというか。バランスが難しいですよね。

清永:その発想って、たしか(テーブルに置いてあったSOPH.のティッシュボックスを手に持って)これからだよね。うち、ご存知の通りノベルティに力入れている会社で(笑)、日本を代表する製紙会社とティッシュを作る話になったとき「ボックスのデザインどうしましょうか?」となり。で、最初はグラフィックを入れたんだけど、みんなティッシュの存在を隠したくてウッドのカバーとか被せるなら、それって本末転倒じゃない?ってことで、ウッドのシリーズが始まったんだよね。

清永:〈SOPH.〉も24年続けていると、当時20歳だった子が44歳になっているわけですよ。その時代、時代に必要なものを提案したいって気持ちはあるんですよね。自分が見てきた景色や、感じたものをアレンジして、なるべく飛ばしすぎずに。

藤井:僕は清さんとは10くらい歳が離れているけど、同じような気持ちかな。お客さんが「そういうの欲しかったんだよね」って思ってもらえたら。

―そもそも、お二人がブランドをデザインするにあたり、お客さんの年齢やライフスタイルとか、ペルソナを意識するようになったのはいつからですか? きっと、最初はご自身が欲しいものだけを作ってきたと思います。

藤井:僕もブランドも歳をとって、お客さんも成長していくと、ファッション以外に大事なことが増えてくるじゃないですか。家庭を持ったり、子どもがいたりすると、若い頃みたいに服にお金を費やせなくなってるし、飯代を節約してまで服を買うのも、ちょっとおかしい。

清永:そういったライフスタイルの変化に合ったものが提供できるといいなって思う。みんな仕事で毎日スーツを着るようになったら、カジュアルな服をたくさん買えるわけじゃない。でも、ずっとSOPH.を気にしてくれている人たちに、昔ほど買ってなくてもこの脚立は欲しいと思ってもらいたい。葉山の家を建てた時に、ハウスメーカーの担当者も「昔ほどはお店には行けなくなったけど、ふとしたタイミングで今もお世話になってます」って言われましたしね。




SOPH. × nonnative
Sophnative Room Collection Vol.2

6/24(金)午前11時より、SOPH. ONLINE STORE及び、COVERCHORDにて発売。
※SOPH.shop及びvendor各店での販売はございません。

―では、ここでお話の流れが変わりますが、清永さんは今、お住まいはこの葉山の邸宅がメインなのですか?二拠点をバランスよく使い分けていますか?

清永:7月からは東京と葉山で半々かな。

―地元の大分や福岡へは定期的に行かれているのでしょうか?

清永:じつはこの後、午後の飛行機で行きます。大分トリニータのスケジュールを見ていたら、6月中のホーム試合は今日しかなくて。となるとSOPH.の清永として観戦できるのが今日しかないんですよ。

藤井:その後はどうするんですか?

清永:ブランドが残り続けるのに、創業社長の地元のスポンサードを続けるのはどうかと思ってるんで、今月いっぱいで終わりかな。もちろん、一個人として応援はし続けるけど。

藤井:スタジアムにSOPH.の看板がなくなるのは寂しいっすね。

清永:続けた方がいいじゃないですか?ってスタッフも言うんだけど、自分がいないと理由がなくなるし、他の仕事もしにくくなるだろうから。

藤井:よくも悪くもそこは清さんのイメージが強いですからね。

清永:それもあるし、さっきの話の続きだけど、自分が辞める理由の一つは、服を通じたコミュニケーションとして、もう連れていける場所がないんですよ。自分が30代のときはお客さんや周りの友人達に「こんな服がいいんじゃない?」という感情で作っていたけれど、今54歳のリアルクローズといってもね。



―多くのファンの方はSOPH.と清永さんがイコールの存在でブランドを見てきたと思います。 それこそ20年前はhoneyee.com(ハニカム)などのブログを通じて、清永さんの生活を垣間見ることが〈SOPH.〉というブランドを知ることに繋がっていました。アートや家具への関心、フットボールに対するカルチャー、そうした清永さんの服以外からも情報を嗅ぎ取って、ブランドの輪郭を作るのが心地よかった世代だと思います。

藤井:そういう時代だったよね。

清永:僕のことを昔から知ってくれている人は、自分がSOPH.とイコールだと思ってくれているけど、割と同世代のブランドの中であれば、マーケティング的にも自分の存在が消えている方だと思うんですよ。おそらく、この場所が喫茶店だとして、隣に全身SOPHNET.を着ている人が座っていても、多分僕のこと気づかないとか。そんな時代だと思うんです。それはブランドのためでもある。

藤井:清さんはデザイナーではないからね。ディレクターとも言ってない。昔はそういう肩書きだったけど、今は代表ですよね? 経営のことも考えなきゃいけない人だから。

清永:最初はプレイングマネージャーなんて言ってたよね。選手兼監督。途中からディレクターって、でも社長もやってるしなって。で、代表に変えたんだ。肩書きがデザイナーだと、経営はしなくていいみたいな雰囲気になってしまう。

藤井:もし自分が社長も兼任していたら、もっと別の何かにおしつぶされてたかも知れない。そういう意味で清さんは、ファッション性と社会性、でいいのかな、両方持ち合わせている人。社会性が備わってない人、この業界は多いし(笑)

清永:だからファッション業界にいるんだろうけどね(笑)

藤井:それもわかります(笑)

―それにしてもSNSでのSOPH.退任発表には驚かされました。

清永:今年の正月に退任を発表して、4月に最後の展示会があったけど、いつもと何も変わらない。「ラストコレクションですか?」みたいに言われたけど、そんなこともない。お客さんにもよくないですしね。

藤井:SOPH.が健全な経営を維持しているから、清さんがいなくなってもずっと続けていくことができる。

―最後に大きな花火を打ち上げてしまうと、終わった時の虚しさも残ってしまいますよね。

清永:節目をつけられたくないんです。就任最終日に、何かする予定もありませんし、脚立出して、マグカップ出して、普通に終わる。



―お二人による最後のSophnativeが、こうして服以外のプロダクトである理由が見えてきました。清永さんが意図せずとも作られてきたカルチャーが染み付いている世代にとってはきっと寂しいはずですが、生活と調和したプロジェクトに流れるようにシフトしているのも、とても自然な気がします。 ところで、次世代とおっしゃってましたが、清永さんと藤井さんは、年齢でいえば10歳くらい離れていますが、同じプロジェクトを継続したり、こうして家を行き来する仲です。何か、居心地のよい共通点があるのでしょうか?

清永:共通点? なんだろ。真似をしたり、勉強することもあるけど、感覚はずれてはないですよね。スタイルは違って見えるかもしれないけれど、好きな服の感じは似ているのかな?

藤井:ギラギラした部分があったとして、それを表に出している分量が近いというか……。

清永:ラグジュアリーは嫌いじゃないけど、あえて地味に表現するというか。欲はないように見せてるかもね。

藤井:もし、この家の照明がシャンデリアだったり、クッションがキラキラしていたら仲良くなってないかもしれない(笑)

清永:お互い、身の丈を理解しているかも知れないね。あと、卸先が同じお店が多い。あと、藤井くんも世の中をちょっと引いて見がちなタイプだよね。

藤井:そうですね、しかもど真ん中ではないかな。基本、目立ちたくはないです。

清永:前へ前へ行きたいとは思わないから、業界のフォワードではないよね。ボランチタイプ? でもちょっと中央じゃない。ずるい位置かもしれないですね。(笑)

藤井:そういうポジショニングは無意識に真似しているところもあります。家具やアートのセンスもそう。最初から僕はそんな知識もないし。あ、これにはこんな照明が合うんだ、とか、陶器はこれがいんだ、とか。

―清永さんは、そういった立ち位置やセンスで憧れた人はいらっしゃいますか?

清永:世代的にいろいろな先輩方に影響を受けたけど、限定した人はいないかもしれない。バラバラの集合体を編集している感覚ですね。

藤井:清さんみたいな人って、会ったことないかも。


藤井 隆行 - Takayuki Fujii
1976年生まれ。奈良県出身。武蔵野美術大学 空間演出デザイン学部を中退後、セレクトショップで経験を積み、2001年より〈nonnative〉デザイナーに就任。以来、独創的で洗練されたモノづくりを展開、〈nonnative〉の世界観を確立してきた。
https://nonnative.com

清永 浩文 - Hirofumi Kiyonaga
1967年大分県生まれ。洗練された日常着を目指し98年「SOPH.」設立 (2002年にSOPHNET.へ改名)。
99年には架空のフットボールチームを想定した「F.C.Real Bristol」を、2008年にはメンズウェアの実験的プロジェクト「uniform experiment」をスタートするなどチャレンジングな戦略でシーンを牽引。
https://www.soph.net