Photographs : Kae Honma

Simon Taylor | My Work My Space


「Creativity is all about the process, a series of action.」

そう語るのは、デザイン集団「TOMOATO」創立メンバーであるサイモン・テイラー。

SOPHNET.は、多才なアーティスト・デザイナーであり、グローバルに活躍する同氏との特別なコレクションを制作しました。
90年代初頭より世界的に知られたアートワークの数々を手がけてきたサイモンは、ゆっくりとした時を運ぶ静かな空間で、
穏やかに創作を続けています。

このインタビューでは、今回のコラボレーションについて、クリエイティブの源泉、そして彼が考える80年代以降のデザインや
今後について語ってもらいました。

 スタジオの向かいが、長く住んでいる僕の家でね。5年くらい前だったかな。この場所が空いているってサインが出ていて、どうしようかと思っていたんだけど、結局借りることにした。ここも家みたいなものだし、仕事とプライベートの境界線はあまりないから、便利でいいね。

 今まで、色々な場所でアートワークを作ってきた。90年代、最初に借りたスタジオはSOHOにあったダファーオブ・セント・ジョージの上にあってね。そこはすごく刺激的でよかった。でも、どんどん土地の値段が高くなって、2000年初期くらいになると、みんなクラーケンウェルやショーディッチなど、イーストロンドンに移る人が多くなった。最初は6人で初めたTOMATOも、一時期は30人くらいまで大きくなったけど、長い年月をかけてシュリンクしながら、初期の頃の規模に戻っていった。そしてオフィスにちゃんと集まって仕事するようなスタイルではなくなった。すべては変遷であり、時代の流れともいえる。既にあるものを再利用したり、自分たちで作ることを大事にしている。それは人間の思考回路を理解するために必要な行動でもあるんだ。スタジオの雰囲気は歴代の建築様式によって変わっているけど、そういったエレメントを入れるようにしている。プランテーションに入れている木は、そこらへんの道端でみつけたりしているよ。

SOPHNET.については2000年代から知っていた。ブリストルの音楽シーンをチェイスしていて、洗練された服を作っているイメージがあった。そしてパーソナリティがあるブランドだ。個性があることは重要だね。今回のコレクションも、しっかりしたブリーフはなかったけど、ロンドンのどんなカルチャーが好きで、どんなエリアが好きか、SOPH.からいろいろヒアリングしたことで、グラフィックのアングルがフレッシュになってよかった。過去と同じようなものは作りたくないからね。クリエイティブな仕事の基本はコラボレーションであると思っている。日本語で訳すのであれば「Participation」の意味合いが強いかもしれない。アウトプットを考えるよりは、そこに辿り着くまでのストーリーを一緒に考えることが好きだね。だから一つのプロセスというものは、一つ一つのアクションの連続なんだ。そういう意味でも、自分にはないSOPH.の思考が入ったこの仕事はとても満足しているよ。

 クリエイティブの源泉は、おそらく自分の中のメモリーでしかない。よくその時のロンドンを表現している、とは言われるけれど、意図的にそ うしたことは一度もなくて、日々のルーティンの中で外に出たり、人と会ったり、音楽を聴いたり、クラブに行ったりする中で吸収する無意識的なものがメモリーとして積み重なっていっただけのこと。
ただ、その感覚がロンドンぽい、と伝わるのであれば、僕のアーティストとしてのスタイルが世の中に機能している証拠でもある。きっと80年代に活躍したアーティストは70年代のカルチャーの影響を受けていて、90年代に活躍したアーティストは80年代のカルチャーの影響を受けている。だからロンドンの街の雰囲気は、常にアートによって成り立っていると思うと、 すごく面白いと思う。

80年代は、作り手がこういうことをしたい、という何か明確な意思を持っていた時代だった。なぜならわりとお金に執着するキャリアの時代だったからね。しかし90年代はそうでもなかった気がしている。とりあえず何かやってみる、っていう緩い文化で世の中が動き出した感覚だね。それを2000年代以降になってデジタル化され、時代が速くなった。僕のようにプロセスをカスタマイズしていくスタイルは、90年代に 大きくなった動きだと思う。
ただ、イギリスは他の国よりも経済や社会や政治の影響を受けやすい。そしてそれはアーティストのカルチャーにもすごく反映されている。

 最近はラジオショーのグラフィックだったり、パブリックスペースの建築の仕事で忙しくしている。ようやく施工に入るところかな。マテリアル自体もリサイクルを使っているんだ。とにかく「生み出すこと」が好きで、常に何か作っているかな。それを仕事だと思ったことはないから、つまり僕には仕事とプライベートの境界線もなければ、それ自体もないともいえる。

Simon Taylor / サイモン・テイラー

1965年生まれ。ロンドンのクリエイティブ集団「TOMATO」の創立メンバーの一人。
1990年代から、グラフィックデザインや映像、ファッション、建築など内容は多岐に渡り、平面、立体、音楽と幅広く活動。グローバルではNikeやLEVI’Sなど、日本では資生堂、KDDIなどの企業へ作品を提供。
ソニーのコーポレートアイデンティティ、tv asahi(テレビ朝日)のロゴ制作も「TOMATO」の仕事の一つとして知られている。